星を継ぐもの / ジェイムズ・P・ホーガン

みなさんはAmazonの「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています」に毎回同じ商品が出てきて「いいかげんうぜーな」という思いをしたことはありませんか? 私にとってジェイムズ・P・ホーガン作の本著がまさにそれでした。常識的に考えれば、同じ嗜好の人がチョイスした作品なので、素直に読んでみる価値があるのでしょう。しかし私は「メジャーなバンドよりもマイナーなインディーズの方を応援したくなる法則」*1により、プッシュされすぎているこの小説を避けていたのです。どうみても天邪鬼ですが。まあ、それはさておき、「星を継ぐもの」は実にサイエンスな小説ですね。素晴らしい。30年以上前の小説ですがいまだに古さを感じさせません。
まず、事件らしい事件は2つしかおきません。

  1. 月面で謎の死体が発見される
  2. 木星の衛星で謎の宇宙船が発見される

次から次へと事件を起こして物語を盛り上げるという手法もありますし、それはそれでドラマティックな面白さがあります。が、このSFではドラマじゃなくて科学を描いています。状況を観察し、事実を発見し、仮説を立て、その仮説を検証し、間違っていたらやり直し、正しければその仮説を元に改めて状況を観察する。この繰り返しによって謎を少しずつ地道に解き明かしていく。その過程が延々と続くわけです。これは架空の事件ですが、それでも自分がこの世紀の発見に実際に立ち会っているかのような気分にさせられます。ある程度、科学知識があれば自分で推理してみるのもいいですね。それができのよい仮説ならおそらく正しかったことが分かるし、間違っていてもその仮説のどこがおかしいか作中において説明されているでしょう。
一般的にミステリではトリックが複雑であれば複雑なほど、探偵役の直観や天才的な頭脳に頼らざるを得なくなり、読者としては推理を諦めたくなります。とくに「見立て」とか、こじつけ過ぎて推理する気が失せます。「この事件………あの伝説の通りだ!」みたいな展開にはもううんざりです。しかし本作は謎解決の手段が科学ですから、極めて合理的に事件が解決します。というわけで、ミステリ好きでも楽しめるんじゃないでしょうか。

*1:別名、世間が知らないバンドを知ってる俺ってカッコいいの法則